おいしさの故郷 インタビュー #野菜が好きだ

プルーン(長野県佐久穂町)

長野県の東側に位置する佐久穂町(さくほまち)。西に八ヶ岳、東に茂来山(もらいさん)を望む、標高750~2000メートルほどの地域です。内陸性気候のこの地域では、りんごやプルーンなどの果樹栽培が盛んです。今回は会報誌「自然といっしょ」2018年11月号で取材した佐久穂町の須田治男(すだ・はるお)さんのプルーン栽培をあらためてご紹介します!

ソムリエから
果樹園の園主へ

取材スタッフ:今日はお世話になります!木の緑がいきいきとして、気持ちがよいですね。

須田治男さん(以下、須田さん):この地域はもともとりんご農家が多く、うちもりんごを主に栽培しています。さまざまな品種をリレー栽培していくのですが、ぽっかりあいてしまう時期があるのですね。その時期に試してみたプルーン栽培がうまくいって、次第に広まっていったんですよ。

取材スタッフ:佐久穂町のプルーン栽培には、そのような歴史があったのですね。ところで須田さんは、以前、ソムリエとして活躍されていたそうですね?

須田さん:そうなんです。もともとはフレンチの料理人になりたかったのですが、修行中に出会ったワインに強い衝撃を受けました。世の中には、こういう飲み物を楽しんでいる人種がいるんだなと、憧れみたいな気持ちですかね(笑)。それで、その奥深さをもっと知りたくなり、学校に通って資格を取得し、ソムリエになりました。

取材スタッフ:すごい行動力ですね。でも、その行動力で、実家の農業を継ごうとは思わなかったのですか?

須田さん:継ごうとは思わなかったですね。両親の大変さを、子供の頃から見てきたので、農業へは絶対進むまいと決めていたんですよ。

取材スタッフ:それが、気持ちに変化が起こったのはいつ頃なのですか?

須田さん:社会人として、さまざまな経験を積んでからですね。農業だけが大変なんじゃなかった、どんな仕事も大変なのだと分かりました。そんな時、実家の園地は継ぐ人間がいないので「規模を少しずつ縮小していこう」と、両親が考えているという話を聞いて思ったんです。親たちがこつこつと積み重ねてきた農園。やっと、いろいろな方々から評価をいただくまでになったのに、もったいないと。今だったら、両親からしっかり技術を引き継げて、しかも、新しいことにも挑戦できるのではないか、とね。結婚2年目のことでしたので、妻も若干驚いていましたが、理解してくれました。

取材スタッフ:大きな決断をしたのですね。でも、大人になってからの農業の経験は、ほぼ、なかったのですよね?

須田さん:そうなんです。栽培技術、出荷、経理、営業…全く何の経験もない素人でした。

取材スタッフ:まさにゼロからのスタートだったのですね。そうした中、師匠であるお父様によく言われたことはどんなことでしたか?

須田さん:「毎日園地に足を運べ」ということでしたね。りんごとプルーン、あちらこちらに点在しているので、見て回るのも大変なのですが、毎日足を運ぶことで見えてくることがたくさんありました。だから、それは毎日欠かさずやり続けています。

プルーンは繊細な果実。
細心の注意で栽培。

取材スタッフ:現在、プルーンは、どれくらいの品種を育てられているのですか?

須田さん:7種類を育てています。みんなそれぞれ個性豊かです。一番バッターはオパールという品種。肉厚でジューシー、甘酸っぱさが特徴です。果実がほどよく熟してくると、畑に近寄るだけでいい香りがしてくるんです。本当にうっとりしますよ(笑)。

取材スタッフ:プルーンならではの特徴は、どんなことですか?

須田さん:果皮と軸の部分から雨水が入ると、果実が膨らんでひび割れしてしまうんですよ。割れなくても、膨らんでしまった果実が天日でしぼむとシワシワになって商品になりません。こうしたことを予防するために、多くの品種は、木全体に、雨避けのビニールをかけるんですね。これはりんごには、ない作業です。

取材スタッフ:プルーンはとても繊細なのですね。品種ごとの世話には、どんな違いがあるのですか?

須田さん:大きな違いは、果実と果実の間隔ですね。オパールは5cm間隔、サマーキュートという品種は10cm間隔、プレジデントは20cm間隔、サンプルーンは10cmの中に3個つける、というように、品種の個性に合わせて、果実と果実の間を調整していくんです。花が終わって豆粒ほどの小さな実ができる頃から、実を摘み取って調整していきます。

取材スタッフ:ひとつひとつ、手作業で行うのですか?気が遠くなりそうです!

須田さん:そうですね(笑)。でも、ここは人間の目と手が必要なので、根気よくやっていきます。実を摘み取る作業(摘果作業)が6月頃。7月頃には苦土(くど)というマグネシウムを与えて、木に力をつけてやります。同時に草刈りや防除(害虫の予防や駆除)を行なって、虫の害や木の病気を防ぎます。

取材スタッフ:そして、8月に入ると、いよいよ収穫…ということなんですね?

須田さん:そうです。大きさや色、手で触った時のしっとり感を確かめて収穫します。

取材スタッフ:ここも手作業…になるわけですね!

須田さん:そうですね。プルーンはとてもデリケートですから、細心の注意を払います。収穫は朝と夕方しか、やらないんですよ。果実に熱がこもる日中に収穫すると品質が落ちるからなんです。

いろいろな形で
プルーンの魅力を多くの人に。

取材スタッフ:ところで、今だから話せる失敗談などは、ありますか?

須田さん:恥ずかしいけれど、たくさんありますよ(笑)。遅霜(おそじも)があった年は、木1本で、ひとかご分しか収穫ができませんでした。雨が続いて果実がほとんど割れてしまったこともありました。今、振り返ってみると、本当にいろいろ失敗してきました。でもこの失敗ひとつひとつが大きな財産ですね。失敗から得る教訓は、すごく多いです。

取材スタッフ:失敗を糧に前進しているのですね。かっこいいです!最後に今後の抱負をお聞かせください。

須田さん:現在は、果実酒の開発にも力を注いでいるんです。栽培はもちろんですけれど、いろいろな形でプルーンの魅力をたくさんの皆さんにお伝えしたいと考えています。

取材スタッフ:期待に胸が膨らみますね。今日は本当にありがとうございました!

穏やかにそして優しくお話しくださった須田さん。手入れが行き届いている園地。ひとつひとつがふっくらとおいしそうに実っているプルーン。フランス料理人やソムリエとしての繊細さやきめ細やかさが、プルーン栽培全体に、生きているようでした。

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