おいしさの故郷 インタビュー #野菜が好きだ

アスパラガス(佐賀県上峰町)

筑紫(つくし)平野や佐賀平野、脊振山(せふりさん)や天山(てんざん)。豊かな自然に恵まれた佐賀県は、アスパラガスの一大産地としてもよく知られています。今回は、会報誌「自然といっしょに」2018年10月号にご紹介した土井秀樹(どい・ひでき)さんのアスパラガス栽培をあらためてご紹介します。

春芽と夏芽。生長の仕組みが
若干違うんですよ。

取材スタッフ:うわー!葉がフッサフサですね!イメージしていたアスパラガス畑と何だか違いますね!

土井秀樹さん(以下、土井さん):今は「夏芽」収穫の時期です。北海道などでは、何もない土からアスパラガスがニョキニョキ出てきている風景がお馴染みかもしれませんね。それは「春芽」といって、春先に収穫されるアスパラガスなんですよ。

取材スタッフ:そうですね、テレビや雑誌でよく見かけるのは何もない地面からアスパラガスがニョキニョキっと出ている風景です。それ以外の時期にも、収穫されるアスパラガスがあるのを知りませんでした。

土井さん:春芽と夏芽では、生長の仕組みが少し違うんですよ。春芽は「貯蔵根」といって、地中の根に蓄えられた栄養を使って伸びてくるんです。一方、夏芽は、地上に生えている「親木」が光合成をすることで、アスパラガスに栄養を送り込むんですよ。佐賀県では、その両方を使ってアスパラガスを栽培しているので、出荷時期が長いんです。

取材スタッフ:同じ作物でも、時期によって栄養の使い方が違うということは、それなりに栽培のご苦労も多いのではないでしょうか?

土井さん:長年やってきましたから慣れっこです(笑)。

夏芽は1日で10センチも生長!
朝はだめでも夕方には収穫可能に。

土井さん:それはそうと、ハウスの中は、ものすごく暑いでしょう?アスパラガスは蒸し暑い環境が大好きです。外に出ましょうか?

取材スタッフ:お気遣い、ありがとうございます。暑さに慣れていないので、かなり汗が吹き出してきました(苦笑)。それにしても、土井さんは、この暑さの中で、毎日お仕事をされているのですね。

土井さん:もう慣れました(笑)。とはいえ、そんな私でも、夏の日中はとても暑くてハウスに入ることができませんから、なるべく涼しい時間に作業をするようにしていますよ。朝4時、それから夕方18時ぐらいですね。

取材スタッフ:朝夕ですか?大変ですね。

土井さん:夏のアスパラガスは、とにかく生長が早いんですよ。1日10センチ以上伸びることもあります。朝に収穫できなくても、夕方には収穫できるんです。

取材スタッフ:1日10センチですか?! アスパラガスってすごいパワーですね。

土井さん:どんどん伸びるから、夏は1日たりとも休むことができませんね。

取材スタッフ:どれくらいの長さのものを収穫するのですか?

土井さん:27センチですね。27センチの棒を添えて長さを測って収穫します。

(写真:目安になる棒を当てて収穫)

取材スタッフ:なるほど!そうすれば、収穫できるかどうか、すぐに分かりますね!それでは、栽培の1年を教えていただけますか?

土井さん:1月下旬は、ハウスのビニールを二重にして、ハウスを十分に温めます。すると2月下旬には、地下の貯蔵根に蓄えられた栄養で春芽が生えてきます。それを4月上旬くらいまで収穫します。4月中旬頃からは、夏芽の準備をします。

取材スタッフ:栄養源を、貯蔵根から親木に切り替えるわけですね。

土井さん:そうです。生えているアスパラガスから元気がよいものを選んで、収穫せずにそのまま生長させて親木にするのです。30センチおきに親木を選んで、1ヶ月ほど生長させると、松葉のような「擬葉」が生えてきます。

取材スタッフ:この擬葉が光合成をするということですね。

土井さん:そうです。その栄養で、6月ぐらいから、親木の根元にアスパラガスが生えてきますので、それを収穫します。これは10月下旬ぐらいまで続きます。

取材スタッフ:収穫が終わったあとは?

土井さん:親木をしばらく低温に当てると、11月下旬から1月頃、親木が鮮やかな黄色に変化します。親木の栄養が、地下の貯蔵根に降りてきた証拠です。そうしたら親木を刈り取り、土に堆肥を混ぜ込みます。

取材スタッフ:一年中、休む暇がありませんね。

(写真:11月下旬から1月頃、アスパラガス畑は鮮やかな黄色に変わります)

丁寧に育てれば、20年だって
アスパラガスは応えてくれる。

取材スタッフ:ところで、地下茎は、どれくらいで植え替えるのですか?

土井さん:通常3~5年ものがよく実るといわれますが、うちの地下茎はみんな20年以上経っているんですよ。

取材スタッフ:えー!20年以上も前の地下茎が今も元気で働いているのですか?! すごいですね。

土井さん:そうなんです。丁寧に管理すれば、20年以上経った地下茎でも、いいアスパラガスを育ててくれるんですよ。だから私は作物と常に対話をすることが大切だと思っていますね。

取材スタッフ:対話ですか?

土井さん:そうです。毎日見ていると「ここの草を刈ってくれ」とか「そろそろ肥やしが欲しい」とか、そういう声が聞こえてくるような気持ちになるんですね。その声になるべく応えてやることが大切だと思いますね。そしてさらに2ヶ月後、3ヶ月後を考えて世話をしていますね。「今やっている肥料が、数ヶ月先の親木の元気を左右する」「今やっている親木選定が、数ヶ月後の収穫を左右する」そんな風に考えながら毎日やっています。

取材スタッフ:なるほど、作物との対話。そして先を見据えた世話。すばらしいですね。今日は大変勉強になりました。本当に、ありがとうございました!

20年以上の地下茎を大切にしながら、アスパラガスを丁寧に育てていた土井さん。収穫が終わると「今年も頑張ってくれてありがとう」という気持ちが湧いてくるのだとか。土井さんの思いが作物に届いているかのように、アスパラガスはのびのびと育っていました。

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