
焼く、揚げる、煮る、蒸す、茹でる…
調理法には、たくさんの種類があります。
なかでも「蒸す」と「茹でる」は、
似たような印象になっていませんか?
どちらも水分を使って熱を加え、
食材に火を通すという方法。
温度分布が均一なので焦げる心配がなく、
食材内部が温まるまで安心して加熱できます。

大きな違いは、
蒸気の力で火を通すか、液体の中で火を通すか。
どちらがいいのかは、
食材の特性に合わせて選ぶ必要があるのです。
そこで、ふだん何気なく行っている
「蒸す」「茹でる」の基本を、
辻調グループの日本料理教授、松島愛先生に
教えていただきました。
“蒸す”の基本
魅力
● 形が崩れにくい
焦げたり焼き色がついたりすることなく、切ったときの形を保ったまま、火が通ります。
● 成分の損失が少ない
茹でたり煮たりすると、液体に水溶性の栄養成分は溶けだしてしまいますが、蒸した場合はその心配がありません。蒸している間は乾燥しにくいので、食材自体の水分も保たれます。
● 器に入れて加熱できる
器ごと加熱できるので、そのまま食卓に出せます。食材からしみ出た蒸し汁をそのまま食べられることもポイントです。

蒸し方
鍋に水を入れて沸騰させ、蒸し器や蒸籠をセット。鍋の湯が減っていくと蒸籠の下が焦げるので、常に蒸し器や蒸籠の下部は湯につかっている状態を保ちましょう。
お湯がたっぷり入るふた付きの鍋、市販されているフリーサイズに広がる万能蒸し器や脚付きの台があれば、代用可能です。ザルを2段重ねにしてもいいでしょう。
おすすめの食材
● 白身魚(鯛や平目など)
魚特有の臭みが少ない白身魚は、蒸しもの向き。お酒を振りかけることでさらにクセがなくなり、しっとりふっくら仕上がります。
● かぼちゃ、さつまいも、里芋、栗
蒸すとでんぷんがゆっくりと甘みに変わります。余分な水分を含むことがないので甘みが増して、ほくほくとした食感になります。
“茹でる”の基本
魅力
● アク抜きになる
タケノコは米ぬかを加えた水で茹で、ゴボウやレンコンは酢を加えた熱湯で茹でることによって、渋みや苦みが抜け、アク抜きにもなります。
● まんべんなく火を通すことができる
100℃近い湯の対流熱で、食材全体を加熱します。そのためムラなく、火が通ります。
● 焦げる心配がない
液体の中で火を通すため、焦げることはありません。ただ、鍋のサイズより大きい食材を茹でると、はみ出た部分は焦げる可能性があるのでご注意を。

茹で方
火が通りやすい葉野菜、アスパラガス、小さく切った野菜全般は熱湯に入れて茹でます。火が通りにくい大根やかぶ、れんこん、大きく切った野菜全般は、じっくり火が通るよう水から茹でましょう。
茹でると水溶性の栄養成分は溶け出してしまうため、茹で汁は捨てずに煮汁やスープとして再利用しましょう。
おすすめの食材
● れんこん、ごぼう、うど
少量の酢を加えて茹でると、酸化を進める酵素の作用を抑え、褐色になるのを防ぎます。
● 山菜
秋の味覚、山菜。重曹や灰アク汁を加えて茹でるとアクが抜け、やわらかくなります。
● 角煮用の豚肉
おから&土生姜と一緒に茹でると、湯に溶けだした豚の油を吸着してくれるため、豚の旨みだけが残り、さっぱり仕上がります。
蒸し茹でで変わる、いつものレシピ
蒸しポテトサラダ
じゃがいもは蒸すと、茹でたときよりビタミンCの残存率が高くなります。一緒に蒸したにんじんを加えると、彩りがよく、味わいも深くなります。

蒸し栗の栗きんとん
栗は茹でるより蒸した方が時間はかかりますが、断然ほくほくとした食感に仕上がります。
茹で冷奴
葛粉をまぶしてさっと茹でると、口当たりがよく新鮮な食感になります。

昆布と茹でる柿田楽
懐石料理などで見られる柿田楽。柿と昆布を一緒に茹で、田楽味噌をかけると、家庭でも贅沢な味わいを楽しめます。
食材の特長を理解してその食材に合う調理法を選ぶことで、
おいしさがもっと引き出せて、
彩りよく、美しいひと皿が完成します。

「蒸すか茹でるか、どっちがいいかな?」と考える時間も、
おいしいごはんのための楽しいひととき。
お料理のアレンジも広がるので、ぜひお試しください。
- 監修/松島愛さん
- エコール 辻 大阪(辻調グループ) 日本料理教授。奈良県出身。1996年辻調理師専門学校卒業。テレビ番組などに出演・料理監修のほか、2012年から2年間、毎日新聞夕刊「落語食堂」連載を担当。
