飽きずに飲める味に
実のところ、今のカゴメの技術ならできるはずだという確信もありました。
加工用トマトは年に一回、夏に一斉に収穫しますが、完熟トマトの香りを生かしたまま濃縮するカゴメの特許技術「RO(逆浸透圧)濃縮技術」の向上などにより、トマトジュース原料として一年中、おいしく提供することができます。
期間限定商品の場合、収穫時期が遅い東北地方や北海道のトマトは間に合わないのですが、通年の商品があることで、それらも活用できるようになります。日本の農業にインパクトを与えるには一定の規模感が必要で、カゴメだからこそできることであり、すべきことだ、と社内でも一気にプロジェクトが動き出しました。
となると次のミッションは、なるべく多く飲んでもらえるトマトジュースをつくること。つまり、味や食感の調整です。実はこれが、とてつもなく難しいのです。
国産トマトならではの酸味を生かした「日本のトマト」は、
そのまま飲んでも、食事と合わせても、すっきりと飲める味。
おいしいジュースをつくると一口に言っても、どんな原料からつくるか、どんなシーンで飲まれるかによって、おいしさの定義は異なります。今回は、国産トマトのおいしさを最大限に生かしつつ、健康直送便でお届けするからには毎日飽きずに飲んでもらえるように、後味のすっきり感を重視しました。
私は那須工場に勤務していたとき、工場に届く世界中のトマト原料を毎日検品していました。各国のトマトを試食したことで、味や香りの特徴が知識として蓄積されました。その味覚が、その後の飲料の商品開発に生きています。
同じ「凛々子」という品種でも、産地の気候や風土によって、味はまったく違います。海外産のものは甘くフルーティーなものが多い一方、日本のトマトは酸味があってさわやかな味わい。
今回は国産トマトだけが原料なので、「これが日本のトマトの味なんです!」と自信をもって言えるジュースにすることは、大きな挑戦でもありました。また、トマトは食物繊維が多いため、ジュースにしたときの食感がドロドロ、モコモコしてしまいがちなのも課題の一つでした。
そこで、私と同じように那須工場の勤務経験があり、トマト加工の全工程に精通する飲料食品開発部の山崎健雄を開発担当のリーダーに抜擢し、2人で数十回の試作を繰り返しました。
「日本のトマト」の開発を牽引した、カゴメ飲料食品開発部の山崎健雄さん
複数の野菜や果物をブレンドするジュースとは違い、トマトの素材の力だけでおいしさの到達点に近づけていくので、変数は少ないものの、精密な味覚や素材への理解が必要になります。トマトペーストと2種類のトマトピューレ、計3種類のそれぞれ完成された原料をさまざまな配合で混ぜ合わせ、バランスを調整していきました。
味を決めるときは、甘味や酸味を科学的に分析した数値と、開発者の感覚を両立させ、最終的には開発者の味覚が決め手となります。「これだ!」という地点まで突き詰めていく作業は、カメラでピントを一点に絞り込んでいくようで根気がいるものですが、「いつか絶対にたどり着けるはずだ」という自信はありました。
試作を繰り返して4カ月ほどたった頃でしょうか。濃厚さがありながら、フルーツのようなすっきりした風味が実現したときは、改めて日本のトマトを誇らしく感じました。
6月上旬の茨城県のトマト畑で、梅雨に入る前に雑草の発生や雨で土が跳ね上がるのを防ぐ敷き藁(しきわら)の準備をしている様子。「凛々子が太陽の光を浴び、元気にすくすくと育っています。契約農家のみなさん、カゴメのフィールドマンも我が子を育てるような思いで日々凛々子と向き合っています!」と山口。