益子の地でトマトの栽培を続けて47年。
栃木県芳賀郡益子町 岩崎克己さん
2025.08.07
北から連なる八溝山地と関東平野が出会うところに位置する益子町(ましこまち)。四季折々の表情を見せる自然豊かな里地・里山では、農業を中心に土地の風土に根ざした生業と暮らしが営まれています。
また、益子といえば有名なのが“益子焼”。陶芸の一大産地としても知られ、春と秋、年2回開催される「陶器市」は、町を挙げての一大イベント。日本全国から多くの人々が訪れます。
そんな益子町で、25歳からカゴメの加工用トマトの栽培を続ける岩崎克己(かつみ)さん、御年72歳。トマトが赤く色づき始めた6月末、岩崎さんをトマト畑に訪ねました。毎年“旬”を搾ってお届けする、カゴメ『夏しぼり』に使用されるトマトが、この畑で栽培されています。
ゴールデンウィークの春と秋、年2回の「益子陶器市」の期間には、
全国から多くの陶器・陶芸ファンがこの町を訪れるという。
岩崎さんの畑の最寄り駅、
真岡(もうか)鐵道「七井(なない)駅」は1時間に1〜2本が通る無人駅。
駅周辺にも一面田畑が広がり、普段はとても静かな自然が豊かな町。
訪問時の岩崎さん、颯爽と赤いトラクターで作業中。
オヤジの代からの〈契約栽培〉農家、
自分も加工用トマト栽培に魅力を感じて。
トラクターから降りてきて開口一番、「今日は皆さんが来ると聞いていたので、歩きやすいように早朝から畦道の草刈りを」と、笑顔で迎えてくださった岩崎さん。日焼けした顔にもやさしさが滲み出る。そんな岩崎さんに、加工用トマトの栽培を始めた経緯からお話を伺いました。
「私もはっきりとは分かりませんが、元を辿れば少なくとも私の五代前には農業をしていたと伝え聞いています。代々農家の家に生まれ、私のオヤジも農業を継いでました。
昔はこのあたりは煙草の栽培が盛んだったようですが、時代と共に煙草自体の需用も少なくなってきて、どうしようかと思い悩んでいた頃に、丁度カゴメ『トマトジュース』のための加工用トマトの栽培の話があり、オヤジの代にはもう〈契約栽培〉農家としてトマトの栽培を手掛けていました。
農家にとって、何より“安定した収入”はうれしいもの。そんな訳で、私もトマトの栽培に魅力を感じて、オヤジの跡を継ぎました」。
岩崎さんの畑に立つ〈ジュース用トマト契約農家圃場〉の札。
「植付本数」はもとより、「畦幅(畦道の広さ)×株間(ひと株ごとの植え付け
間隔)」まで細かく規定されている。
岩崎さんの畑に植えられている『KG252』という品種は、カゴメがジュース用に
開発した加工用トマト品種『凜々子(りりこ)』の一種。この畑では他にも
二種類のトマトが栽培されている。
全国480名の〈契約栽培〉農家さんと
力を合わせて、美味しいトマトジュースを。
既にご存知かもしれませんが、カゴメは1899年創業以来、安心・安全な原料を調達するために、トマトの契約栽培に取り組んでいます。日本の農業との共存共栄を図る契約栽培は、まず作付け前に農家の方々と全量を買い入れる契約を結びます。
契約栽培を行うことで、農家の方にとっては廃棄の無駄や価格変動という不安がなくなり、高品質の原料を作ることに専念できます。同時に、高齢化する日本の農家において、経験の浅い若手農家の育成にもつながるものです。
現在、岩崎さんのような契約栽培農家さんは、日本全国に約480名※。今日も炎天下の畑に立ち、『夏しぼり』のために美味しいトマトを育ててくださっているのです。
※全トマトの契約農家数
日々トマトの生育状況を見に畑に立つ岩崎さん。「幾つになってもトマトの顔色を見るのは楽しい!」と語る。
「いつも生産者の皆さんと一緒に」!
今も忘れない、胸に響いた社長の声。
カゴメの〈契約栽培〉農家を継いで、「今も忘れられない言葉がある」と、昔の記憶を語ってくれた岩崎さん。
「もう随分前のことになりますが、地域の栽培講習会だったか、契約栽培農家の集会に、カゴメの社長が参加されたことがありました。大変失礼ながら、今となってはそのお名前も忘れてしまいましたが、今も忘れられない言葉があります。
私たち農家の前で、その社長『私たちカゴメは、いつも生産者の皆さんと一緒にあります』。その後に少しだけ間をおいて、『ジュースが売れたら、売れた分だけ分かち合いましょう』。そう親しく語りかけてくれたんです。あの言葉は本当にうれしかった。まだ若かったこともあって、私も胸が熱くなりました。」
加工用トマトは基本的に露地栽培。自然が相手だけにいつ何が起きるか
予測不可能。トマト栽培歴47年、超ベテラン農家の岩崎さんでさえ、
「まだ、どう対処していいか分からないことがたくさん起こる」と言う。
カゴメの“トマト栽培のスペシャリスト”「フィールドパーソン」と定期的に畑を
巡り、栽培状況を細かくチェック。話し合いをしながら最適な対処法を検討。
今年も美味しいトマトが実りそう。
体が動く限りはトマトの栽培を続けます。
25歳でカゴメの加工用トマトの栽培を引き継ぎ、23歳のときに結婚したという奥様とも、長い間二人三脚で畑仕事をやってきたという岩崎さん。3人の娘さんにも恵まれたそうですが、いずれも嫁に出て跡継ぎはいないと言います。
「昔は益子町だけでも20人くらい〈契約栽培〉でトマトを育てる農家がいましたが、今では3人にまで減ってしまいました。後継者問題はこの町でも深刻です。私もいい歳になりましたが、まだまだ体が動く限りは、トマト栽培を続けます。」と明るく語る岩崎さん。
“旬”の味を大切にする『夏しぼり』の場合、トマトが熟したら、できるだけ短期間で収穫することが求められます。しかもトマトの収穫はすべて手作業。多くの人手が必要になります。収穫時期には、臨時で作業を手伝ってくれる人にお願いして、10人くらいで一気に収穫するのだとか。「大きな声では言えませんが…」と声を潜めて岩崎さん。
「皆さん、加工用のトマトは食べたことがないと思いますが、実はジュースにして美味しいというカゴメの加工用トマトは、芯までねっとり濃厚でとても甘い。生食用のトマトの場合、真ん中にゼリー状のところがあって、よく“青くさい”とか言われますが、加工用のトマトにはそれがなくてスッキリ爽やか、だけど甘いんです。収穫を手伝いに来てくれる人の中には、出荷できないトマトを「持って帰りたい」という人もいるほど。
フィールドパーソンの岸上さん、最後にこっそり教えてくれました。
「岩崎さん、実は人前に出る時には赤いTシャツが“勝負服”なんです」。
今年の『夏しぼり』にも、どうぞご期待ください。
労働力や後継者不足の問題をはじめ、益子町の農業にも厳しい現実問題はありますが、72歳にして今なお若々しく元気に畑に立ち続ける岩崎さん。〈契約栽培〉はもとより、「フィールドパーソン」のサポートをはじめ、私たちカゴメも出来る限り日本の農業の応援を続けていきたいと考えます。
今年のトマトの出来具合も良さそうです。この先もけんちょくと共に、日本の農業を守り続ける農家の皆さんに温かいご声援とご支援を!毎年『夏しぼり』をご愛飲くださるお客様、『夏しぼり』はまだ飲んだことがないというお客様も、どうぞ2025年の『夏しぼり』をよろしくお願いいたします。