静岡県-牧之原市
「箱根八里は馬でも越すが 越すに越されぬ大井川」今ではおだやかな表情を見せる大井川の西岸一帯は、日本一の茶どころ、牧之原台地です。 平地も山肌も美しい茶園で埋め尽くされていました。
東名高速道路の「相良牧之原インターチェンジ」付近。太陽の光を受けて鮮やかに輝く緑色の畝々が、広い大地に美しい模様を描いています。この風景がかつて不毛の荒野だったとはとうてい信じることができません。この大地を切り拓いたのは、おもに、明治維新により職を失った幕臣たちでした。その中心となったのが中條景昭。「我々にこの地を与えてくださるならば、死を誓って開墾に努めます」と当時の静岡藩大参事に申し入れ、「最後はお茶のこやしになる」と、一生を牧之原の開拓に捧げました。温暖な気候と豊かな陽光。そして刀を鍬に持ち替え、必死に大地を耕した旧幕臣たちの努力が、この地を日本一の茶産地にしたのです。
牧之原では、緑茶の中でも「やぶきた」という品種を栽培し、蒸す時間を長くして茶葉のコクや旨みを引き出した「深蒸し煎茶」を主に生産しています。
お茶は収穫する時期によって一番茶、二番茶、三番茶と呼び分けられますが、新茶と呼ばれるのは4月上旬〜5月上旬に摘採される一番茶です。この一番茶こそ香り高い最上のお茶と言われ、特別やわらかい若芽(葉)からしかできません。この若芽の状態を現地の方言で「みるい」と言うそうです。「触り心地が非常にやわらかくて艶のある若々しい緑色、それがみるい芽なんです」とJAハイナンの落合さんが説明してくれました。
一番茶葉を摘み始める時期、農家の方が一番恐れるのが霜です。霜に当たってしまうと、せっかくの緑色が一夜で真っ黒になってしまいます。そのため、茶園に立っている何本もの扇風機を回して空気を攪拌したり、草やワラを敷いて土の温度を調整します。また、この時期は強い風も茶葉の大敵。「風が強いとみるい芽どうしがこすれて傷付いてしまう。摘採前は本当にビクビクしてますよ」。茶園と加工工場を持つ萩原正紀さんが心境を明かしてくれました。
一番茶の摘採を終えると害虫の防除や新しい芽と古い芽をそろえる芽ならしをし、6〜7月上旬頃に二番茶葉を摘採します。一番茶は始めのうちは手で摘み取りますが、二番茶以降は効率を考え、機械で摘採するところも多くなりました。乗用型や可搬摘採機など、茶園の規模や形に応じてさまざまな摘採機があります。2人1組で行う可搬摘採機を使うのはたいていご夫婦。「夫婦円満じゃなきゃ作業がはかどらない(笑)」。そして防除や夏肥を施し、7月下旬〜8月上旬頃は三番茶。11月には翌年よい芽が出るように整枝を行い、翌年1月下旬からは、また肥料や防除に精を出します。
萩原さんが摘採した生葉は、家の工場で蒸して揉み、乾かした状態の荒茶に加工されます。牧之原では、萩原さんのように茶園と工場を持っている生産者も多く、大小合わせて200以上もの工場があります。「威勢のいい葉かそうでない葉かによって、蒸し時間や回転数、風量を微妙に調節します。機械を動かすにも人間の五感が大切なんだね」。最盛期は1日2万㎏の茶葉が工場に運ばれ、加工もまさにフル稼働です。
そんな萩原さんは、毎食後、ゆっくりお茶で一服するのが習慣となっているそうで、特に夕食後は、時間をかけてお茶を入れ、ご家族一緒に団らんを楽しまれているそうです。忙しいときほっと一息つくお茶のある生活。こんな時間を大切にされている方々がつくるからこそ、牧之原のお茶は豊かな風味を携えているのです。






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